宝箱 - 1/3

 書簡の上に置かれた覚え書きの文字を覗き込んでアルスラーン陛下は言った。
「エラムの字ってナルサスにそっくりだよね」
「え、そうでしょうか」
 わたしが小さく首を傾げると、証人を増やそうとしてか陛下が振り返って執務室の奥に声をかけた。
「ダリューン、ちょっとおいでよ」
「はい」
 手招きされおとなしく寄ってきた男の影が広々と落ちて机の上が暗くなる。
「どう思う?」
「なるほど確かに……」
「「このまるっとしているところとか」」
 ふたりの声が示し合わせたように揃い、その後も鏡を見るかのように同じ動作で顔を見合わせて笑うのだからこの主従の絆はよほど深い。
 そうでしょうか、などと空惚けてはみたものの、それは当たり前だと思う。なぜってわたしに文字を教え、読み書きの術を叩き込んだのはナルサス様なのだから。
 ふたりは「急いでいる時の字なんか特に」「確かに。走り書きは最近見分けがつかないこともあるほどで」などと仲良く言い合っている。
「なにやら盛り上がっているようだ」
 そこへやってきたのは渦中といえば渦中のナルサス様である。片手になにやら箱のようなものを携えているのを陛下が目敏く発見して「それは?」と尋ねた。
「城下で見つけまして。ナルサス箱、というらしいです」
「ナルサス箱?」
「ナルサスが入っている箱?」
「ナルサスが発明した、という意味です」
「画家兼軍師の肩書きに飽き足らず……」
 ダリューン様が呆れたように言うと、
「手広いね」
 陛下は揶揄うように笑った。
「たしかに似たようなものを作ったことはあります」
 なぁエラム、と確かめるように目線を投げかけられて頷きあう。
「作ったのはあれひとつきりだから、在野の器用な細工師が作ったんでしょう」
 なかなかいい技倆だ、と感心する間にもナルサス様の手は次々に仕掛けを解いていき、ほとんど間違えることもなく箱を開けてしまった。
「これは十回動かせば開くらしい。おれの作ったのはどうだったかな、エラム」
「十五回でした」
「結局、中には何を入れたんだい?」
「宝物です。それ以上は、ナルサス様であっても教えられません」
「おれは魚の秘密を教えたのに?」
「あんなものじゃ足りません。これは墓まで持っていくと決めている秘密なんですから」
 自ら口にした墓という言葉でそういえば、と思い出す。
「いい機会なので、ナルサスさま、この不肖エラムの一生にいちどのお願いをしたいのですが」

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